IT化遅い日本の欠点「紙と電子の併存」は愚策だ 「やめる」という戦略を考えないと崩壊する

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行政のデジタル化がなかなか進まない日本。その理由と打開策を解説します(写真:CORA/PIXTA)
日本のデジタル化では、「こんなことが可能になります」という「足し算」ばかりが語られてきた。しかし、何かを「やめる」という「引き算」が主張されることは少ない。日本発のリアルタイム組み込み系OSのTRON(トロン)やユビキタスコンピューティングで世界に先駆けた坂村健氏は、「変えることを恐れる」傾向が強いのが、日本が世界に出遅れたいちばんの理由だと指摘する。どのようにしたら日本でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むのか。坂村氏の新著『DXとは何か 意識改革からニューノーマルへ』から一部抜粋・再構成してお届けする。
前回:「絶対安全」が好きすぎる日本人に伝えたい盲点
前々回:「技術に土地勘ない人」が絶対知るべきDXの根本

デジタルの力で行政システムを透明化

日本がどうデジタル化するべきかという基本戦略として、最も重要なポイントの1つが「行政プラットフォームの確立」だ。これはパソコンのOS(基本ソフト)を考えてもらえばわかる。印刷など大抵使うような機能をまとめたOSがハードウェアとの間にあるから、アプリケーションごとに多重開発しなくていい。

行政でも本人確認、手続きに伴う通知、入出金など、多くの行政サービスで共通に使う基本機能がある。それらを「行政OS」を通して使えれば、個々のサービスは独自処理部の開発のみで実現でき、多重開発の愚を避けられる。さらにこのOSに開発力を集中すれば、品質を上げ、セキュリティーの強化やバグの発生を抑える効果も期待できる。

行政のデジタル化=行政OSという文脈で考えれば、マイナンバーは行政が国民を管理する番号ではなく、国民が行政システムを利用するためのIDということになる。それは行政OS時代の国民の権利そのものだ。国民を管理しやすいように付与する背番号とはまったく意味合いの違うものだ。

マイナンバーで問題になった個人情報の不当利用の恐れは確かにある。しかし、行政デジタル化の先進国のエストニアでは「行政OS」に個人情報へのアクセスを一本化し、通常でないアクセスはその個人に自動通知する機能をOSレベルで埋め込んだ。

例えば、警察が陸運局システムに自動車ナンバーで照会をかけると、即時に持ち主の携帯にその通知が来る。国民はあくまで行政OSのユーザーであり、スマートフォンのOSがそうであるように、ユーザーのための様々な通知がOSから来るのが当然のことだからだ。

思考停止して「とにかく利用禁止」というのではなく、むしろデジタルの力を積極的に使うことで逆に行政システムを透明化し、不当利用への抑止力にするという考え方への転換が必要なのだ。

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